イヴの時間 劇場版 / インターネットで配信されたWEBアニメに新作シーンを追加した再編集版。アンドロイドは人々の手助けをする「道具」でしかないはずが、両者を区別せずに接客する喫茶店が存在し……。

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スタジオ六花・吉浦康裕演出、原作、脚本、監督。ディレクションズの製作による全6話のWEBアニメ「イヴの時間」に、新作カットをプラスして再編集した劇場版。アンドロイドと人間との関係をテーマにし、高クオリティの3DCGも話題。
アンドロイドが普及し、人々は便利な道具として扱うのが当然とされ、彼らを人間視したり特別な感情を抱くことは精神病に近いとされている未来。高校生リクオもそういう価値感で育ってきたのだが、ある日自家用アンドロイドのサミィの行動記録に不可解な点を見つけ、「人間もアンドロイドも同じように接客する」という喫茶店『イヴの時間』にたどり着く……。
声の出演は、福山潤、野島健児、佐藤利奈、ゆかな、杉田智和ら。
あらすじ
子どものころからアンドロイドを人間視することなく、便利な道具として利用してきた高校生のリクオは、ある日、自家用アンドロイド、サミィの行動ログに不審な文字列が刻まれていることに気づく。親友のマサキと共にログを頼りに喫茶店、イヴの時間を訪れたリクオは、人間とアンドロイドを区別しない店のルールに驚く。(シネマ・トゥデイより)


2009年とちょっと前の作品なんですが、最近やっと見れたのでご紹介。このブログでも過去に「サカサマのパテマ」のレビューしてますね。
(サカサマのパテマ / 地下集落のお姫様パテマ。ある日決意した彼女は、外の世界を見に行ってしまうのだが・・・。「イヴの時間 劇場版」の吉浦康裕が手がけたSFファンタジーアニメ。 http://xn--qfusdo8o71s.seesaa.net/article/Patema-Inverted.html)

その時は違和感こそありませんでしたが、時代も時代なので「イヴの時間」はやはり3DCGとしては(今見ると)若干技術の差を感じてしまうのは否定できません。おそらく色々な角度から描写できることを売りにしたかったのだと思いますが、微妙に揺れたり、回り込んだようなカメラワークが出てくるので、「誰かがのぞいてることを示唆する演出なのか?」とか勘ぐっちゃう。結論からいうと考えすぎでした。

とは言え、特定の何かが浮いて見えるとかもないですし、そもそもお話に入り込んじゃうと全く気にならないレベルなのでご安心を。アンドロイドがテーマなので機械っぽい表現も多少出てくるのですが、仮に2021年現在の映像技術でそこだけ力入れられたりするよりにも全体的に統一されててむしろ見やすいかも。劇中では人間そっくりなため、頭上にホログラム?のようなもので一眼でアンドロイドとわかるように義務付けられてるのですが、「イヴの時間」の店内ではそれすらオフにしてるので見た目上は全員が人間そのもの。ただメニューのシステムとかすごく近未来っぽくて「こういう未来があるかも」って思わせます。

そうなると当然「アンドロイドだと思ってたら人間」「人間だと思ってたらアンドロイド」という流れがくるのは予想できるわけで、やっぱりそういう話はありました。常連客の人たちにスポットが当たって、それの事情、人生がちょっとだけ見える構図。そういうのを知っていく中で、リクオの価値観が変わっていく。

実際に試聴する前は「人間とアンドロイドの恋の話なのか」って勝手に思ってたんですが、実際のところ『特別な感情を持つことは「ドリ系」という精神異常とされる』中で、主人公は『心のどこかで人間と同じように考えてしまって、それを必死で否定しようとしてる』が近かった。自家用アンドロイドに対しては家族の一員として大切にしたり懐いてたり、自分よりピアノが上手くなったらやだという嫉妬だったり。リクオの恋愛要素としてはイヴの時間の常連の……。例えば車にすら名前つけたりする人いるわけで、例え多くの人間が道具と割り切ってつきあってたとしても本人が大切にしたり特別な存在として扱っても何も悪くないと思うんですけどね。普通の価値観してたらおかしいルールだよなって思うから、自然とリクオや、イヴの時間のコンセプトに感情移入し、賛同するようにできている。

多くは語られませんが、過去のとある事件や店員さんの素性とかも匂わされるので、一応倫理委員会があそこまで厳格になる背景とかはちょっとだけ見えてはきます。そして中盤あたりからは主人公がリクオからその友人のマサキにシフト。単に現代人の平均として、あるいはリクオとの対比として「アンドロイドに対するドライな価値観」なのかなーと思ってたら、その頑な姿勢の裏には理由があった。これこそ王道のテーマなので途中からすぐにわかっちゃうと思うんですけど、それでもかなり泣かされましたね。

特に「ロボット三原則」を上手く取り入れたあの行動。やった方もすごいけど、即座に意味を理解してそのチャンスを利用しようとしたマサキもさすがでしたね。この辺りは完全に主役でしたし、人間とアンドロイドの関係性を描いてきたこれまでのエピソードの集大成って感じがしました。もう家族なんだよね、同じ家で暮らしてたら。

最初と最後で何か劇的な変化が起きるわけでもないし、社会は変わらない。でも悲劇も起きてない。仮に見つかって「イヴの時間」という憩いの場がなくなったとしても、こういう人間たちがいる限りまた別の場所ができるだけだから大丈夫。優しさは不滅だよなって安心して見終われるのがとても良かったです。スタッフロール中に紙芝居っぽく回想ぽいのが流れてちょっとだけ補完できるようになってます。

少し経ってますが、温かい気持ちになれるのでおすすめ。

今年の秋には吉浦監督、スタジオ六花の最新作「アイの歌声を聴かせて」が劇場公開予定。

U-NEXTにて試聴。
2021年4月現在、アマプラでも見放題対象です。






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