スリー・ビルボード / 娘が殺されるもなかなか捜査が進展せず、大枚をはたいて警察を批判する3枚の巨大看板をたてた一人の母親。署長、差別主義者の警官などを巻き込みながら、少しずつ変化が起き……。オスカー7つノミネートの傑作ドラマ。

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田舎町エービング。町外れの道路に「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」という3枚の巨大広告が立てられる。それは7ヶ月前にその近くで起こった悲劇の被害者その母親ミルドレッドによるもので、捜査が進展しないことに対する苛立ちからの行動だった。まるで何もしていないかのような批判に、署長の部下ディクソンは特に反発。元々人種差別的で荒っぽい言動の男だったが、ミルドレッドの口も相当悪く、屈しない。TV放送され物議をかもしながらも少しずつ状況は変化していくのだが……。
フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェルら、実力派揃いの演技が光る傑作。アカデミー賞6部門7つノミネート。
あらすじ
ミズーリ州の田舎町。7か月ほど前に娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は、犯人を逮捕できない警察に苛立ち、警察を批判する3枚の広告看板を設置する。彼女は、警察署長(ウディ・ハレルソン)を尊敬する彼の部下や町の人々に脅されても、決して屈しなかった。やがて事態は思わぬ方へ動き始め……。(シネマ・トゥデイより)


予告動画の時点でも相当Fワード(ファッキン)が飛び出してますが、主人公ミルドレッドがまあ口が悪い。そのくらい強くならざるを得ないということでもあるんですが、めちゃくちゃ強烈なキャラしてます。家族構成的には犠牲となった娘の下に息子が一人いて、今は二人暮らし。別れた夫は若い女性と付き合ってるようです。母親の行動にばかりフォーカスされるので影は薄くなりますが、この家族3人それぞれ彼らなりに悲しみを抱えてる様子は胸がいたくなります。特に看板を見るたびに事件の詳細を思い出してしまうから辛い、って息子が言うシーンが印象的でした。
全体的にピリピリしてるので未だに衝突も激しく、テーブルひっくり返して詰め寄るところも衝撃ですし、間髪入れずにそんな父親に対して包丁を突きつける(予告動画にでてます)ところも、なんかこう「父親の代わりに母親を支えなければ」と奮闘してる感じがしてこれまたジーンときます。戦ってるのはミルドレッドだけじゃない。

彼女と敵対、と言うか劇中一番ぶつかることになるのは看板で名指ししている所長よりもその部下のディクソンで、演じたサム・ロックウェルはこの作品でアカデミー助演男優賞を獲得してますがほんと主人公の次にインパクトある、そして感情移入した人物でした。基本的に差別的って言うか全方位に暴言を履いていくスタイルですし、かなり暴力的。頭に血が上ると周りが見えなくなるタイプっぽいです。特に昔から知り合いだった広告店経営者とのやりとりとか最もひどく、何もそこまでやらなくてもってレベルの暴力でちょっと怖かったです。マザコン、とも違うんでしょうが母と二人暮らしで、差別的な部分は彼女から影響を受けた模様。ただ映画を通して一番変化したのもまたこの人物で、特に署長の言葉、そして「ジュース飲みますか」(ここも涙なしに見れないので注目)などを経て、だんだんと改心します。終盤あたりに「まじか!」ってくらいカッコいい行動をとるんですけど、悪人具合とのギャップがすごいことになってます。そしてラストシーンも……。

もう一人忘れちゃいけないのが署長さん。この人は別に無能でも悪人でもなくて、なかなか犯人逮捕できる証拠が見つけられなかっただけ。ミルドレッドも彼が全面的に悪いとは思ってないと思うんですよ。どうしてもやりきれない気持ちを誰にぶつけるかって言ったら、結局この人しかいない。まあ看板で晒し者にしちゃってるのは別として、個人攻撃とかもしてないですし、話題になってテレビ放送までされるから結果として注目はされた。それが新たな情報のきっかけになるかもしれないですしね。そこは本人もわかっているので、諭すように話すところなんかは血の気の多い登場人物ばかりの映画の中でより大人に見れました。彼もまた悩みを抱えていて、奥さんとの日々を描写されるものだからこれまた切なくなってね……。だからこそ慕う人も多くて、過激にミルドレッドを攻撃する輩(歯医者)が出てきたり、部下たちがいきり立ってしまったのもどこか理解できるんですけど。そして何より泣けたのが、そのミルドレッドに渡した手紙。先に触れた通りディクソンへのメッセージも心にくるんですけど、こっちもものすごく良いんですよ。彼がとった選択そのものは僕個人的には「もっと他になかったのか」とは思わずにいられないのですが、こっそりとミルドレッドのために用意してたことがすごくて、全然予想してなかったことなので尚更胸を打たれました。正義の人だなぁって。

そういう作品なので、やっぱり最後は犯人が見つかってスカッとする終わりになって欲しいと思いながら見てるわけですが、前述の通り終盤にすごく進展するんですよ。そういう意味では最後までとても目が離せなくて。ラストシーンだけネタバレすると、意外な組み合わせの二人が笑いながら車を走らせてる。それが見れただけでも、ものすごい良かった。ものすごくシリアスな題材を扱っていて、バンバンブラックなネタも出てくるんだけど、不思議とそこまで嫌な気持ちにならない。言いようのないもどかしさや怒りを抱えながらも、同時に人の優しさに触れて、ちょっとずつ前に進む。見終わってとても爽やかになれる作品でした。

ノミネートされてるのが何よりの証拠ですが、上で触れたメインキャラ3人の演技が素晴らしく、一部は決して褒められた人間じゃないにもかかわらずものすごく魅力的に見えて、こういうのが名作だよなぁとしみじみ思いました。

WOWOWにて吹き替え版を録画、視聴。(今年の春に録画)

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