THE GUILTY/ギルティ / 警察官であるものの、とある理由で臨時の緊急通報のオペレーターとして働くアスガー。誘拐されたと思われる怯えた女性からの電話を受け、彼女やその娘たちを救おうと必死になるが。電話越しに事件が進むワン・シチュエーションサスペンス。

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デンマーク産の傑作サスペンス。これが長編デビューとなるグスタフ・モーラーがメガホンをとり、本国でのアカデミー賞とも呼ばれるロバート賞で作品賞など7部門をとったほか海外でも数多くの賞に輝く。緊急通報司令室を舞台に、主人公が受けた電話、及び彼らとのやりとりという一つのシチュエーションだけで完結する、音だけの世界で繰り広げられる異色作。
ある事件をきっかけに一時的に電話オペレーターとして勤務する警察官のアスガーはとある女性からの通報を受ける。どうやら男に車で誘拐されている最中のようで、今どこを走っているかも分からない。他の部署と連携しつつなんとか彼女を救おうと奮闘するが、家に娘たちが残されていることを知り……。
北欧ドラマ「凍てつく楽園」」などのヤコブ・セーダーグレン主演。
あらすじ
ある事件をきっかけに第一線の現場捜査から外され、今は緊急通報指令室のオペレーターとして働くベテラン警官のアスガー。彼のもとには、交通事故に遭ったばかりの女性や、息ができないと訴える薬物中毒患者などから次々と通報が入り、その対応に日夜追われていた。ある日彼は、今まさに前夫に車で連れ去られようとしている、と息をひそめて話す女性から切迫した通報を受け、彼女をなんとか無事救い出そうと八方手を尽くすことに。(WOWOWより)


いやーすごかった。音だけでここまで引き込まれるとは。ソリッドシチュエーション、ワンシチュエーションと表現できるスタイルで、映画の映像という意味では、前述の通り緊急通報司令室で最初から最後まで完結しています。ほぼ全てのシーンで電話を受けるアスガーの横顔だけが映し出されている訳ですが、その電話の相手が重要で、被害者イーベンであったり、家に残されたマチルデという彼女の娘。自分の上司や同僚、パトカーを手配する部署や、最終的には車を運転する男本人とも話ますし、事件が解決しないまま、ずーっと緊迫感が続いたままどんどん進んでいくので、一緒になって焦りや緊張しつつ見守ることになります。

電話を受けるだけで自分が動けないからこその「苛立ち」というのが、映画の「視聴者」という部分とかなりシンクロしていて、そこもうまい設定だなぁと思いました。正直ちょっと肩入れすぎっていうか、明らかにイーベンの一件だけを優先してるのですが(実際他の通報に対してかなりぞんざいな扱いをしてて笑ってしまいます)、テンプレ行動、あくまで型式にのとった行動しかしてくれない他の部署にイライラしてるのが人間くさくてとても共感できますし、あくまで臨時でこの仕事やってるからこその感覚っぽくてリアルに感じました。(本職だったら一件一件に時間かけずにより多くの人を救おうと、いい意味でもっとドライにこなせるはず、たぶん) その結果として上司や同僚など、警察官である自分のつてを使えるものはバンバン使ってできることをしていくってのはカッコよく映りました。何がなんでも救うんだっていう強い意志と、そのためには多少ルールを破る。それでこそ主人公ですよね。

その肩入れがどこからきてるのか。隠されている「謹慎(?)の理由」と関わってくるのかな、なんて思いながら見てたんですけどね。一応映画最終盤に彼の口から何があったのか語られるんですが、あえてあそこで明かされるから意味があってグッときます。それは置いといて、意外だったのは結構子供の応対がうまいところ。多分誘拐された時に周りにバレないように情報を聞き出す手順なんかは指導を受けてるんでしょうけど、過度に怒ったりせずにマチルデを安心させつつさらに状況を整理してくやりとりはちょっと感心しました。突然母親が連れ去られて、弟と二人じゃめちゃくちゃ心細かったでしょうに、あの子もよく頑張ったと思いますが、それをちゃーんと分かって勇気づけてあげてた。

映画が進むに連れて車を運転している男の素性がわかり、居住地がわかり、最終的に目的地が見えてきます。その中でまたイーベン本人とも会話できることで希望が見えてきますが、依然として危険には変わりないし、最初に触れた通り最後の最後まで安心できない状態が続いてくので「もう大丈夫だろ」ってなかなか思わせてくれないところが疲れますし、同時にサスペンスとして面白い。マチルデのところへは警官が駆けつけてそこは一応解決しますが、そこでさらなる惨状、予想以上に自体が深刻だって分かるので進めば進むほど焦りと不安でアスガーも見てるこっちもキツくなるっていう。

でも脚本でうなっちゃったのはその後の展開で、ただでさえ音だけでここまで引き込まれて熱中させられたのにまだあるのかよって笑っちゃうくらい凄かった。逆にいうと音だけだからこそこのインパクトが成立したのかもしれないし、つくづくよくできた作品で、評価されたのも納得です。上記予告動画で僕の好きなクリエイター小島監督(メタルギアやデスストの人)も「ヤラレタ」と表現してますが、ほんとそうです。そして先に触れた、アスガーが語る自分の経緯。あの絞り出すような独白もまた心にくるし、その後の沈黙が……。
ただ終わり方としては個人的には好きなタイプで、特に「お疲れ、アスガー」ってセリフが沁みるんですよね。あらためると大事な真偽を控えた前日のシフト。彼にとってかなり現実としても体感的にも長い夜になったでしょうし、一生忘れないんだろうなぁって。ワンシチュエーションでここまで心揺さぶられるとは。文句なしの傑作でした。

WOWOWにて吹き替え版を録画、視聴(2020年3月録画)




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