水上のフライト / 大学生陸上で無敗を誇っていた高跳び選手が事故によって、車椅子に。自暴自棄になった彼女はカヌーに出会い、パラリンピック出場という新たな目標を得る。中条あやみ主演。スポーツ感動ドラマ。

「超高速参勤交代」「引越し大名」の原作、脚本の土橋章宏が、リオのパラカヌー出場の瀬立モニカ選手との交流をもとに描いたパラスポーツ感動作品。主演は中条あやみ。将来を約束された大学の高跳び選手が事故によって下半身付随となるも、カヌーとの出会いによって少しずつ希望を取り戻していく。本人の頑張り、そして周囲の人間の優しさに涙する。
走り高跳びで女王として君臨しいずれはオリンピック出場と誰もが思っていた矢先、交通事故によって車椅子になってしまう。夢を絶たれた彼女は自暴自棄になるが、子供の頃やってたカヌーと再び出会い、上半身のみで楽しめる面白さにハマっていく。周囲は、パラリンピック出場という新しい目標はどうかと提案するのだが……。
献身的な母親に大塚寧々、コーチとして、ムードメーカーとして小澤征悦のほか、杉野遥亮、高月彩良ら共演。
あらすじ
将来性の高い走り高跳び選手として活躍し負け知らずだった遥(中条あやみ)は、ある日、不慮の事故に遭遇する。命は取り留めたが下半身はまひし、将来の夢を断たれた遥は心を閉ざし自暴自棄になってしまう。しかし周囲の人々に支えられ、パラカヌーという競技に出会った彼女は、新たな夢を見つける。(シネマ・トゥデイより)


土橋さんが手がけた作品はコメディ色が強いものが多いですが、今回は王道のスポーツ青春もの。本物のパラリンピック出場者の経験が生かされているだけあってすごく胸を打ちます。もちろん本格的な練習シーンや、風をきってカヌーで進むという競技そのものの面白さ、凄さも十分に伝わってくるんですが、それ以上に「別の競技からの転向」という要素が大きいんですよね。最初の夢を諦めなければならない。劇中でもその決心がなかなかつかなくて、パラリンピックをすすめられた時に遥は怒ってしまった。その気持ちもよくわかります。
ある日突然何かを諦めなきゃならなくなる。それなら違う道に、なんて簡単に割り切れる訳が無い。それは別にスポーツに限った話ではなくて。誰もが共感できる物語だと思います。

もともと遥はすごくストイックで、自分に厳しく努力することで結果も出してきた。それこそ最初の方は嫌な人間に見えることもあったと思います。特に陸上部の仲間にさえ、冷たい言い方をしていた。彼女なりの叱咤激励だってのはわかっていても、どうしても腹たつ。カヌーを通して、そんな彼女自身の性格まで変化していくっていうのがグッときます。わざわざ終盤に後輩や記者たちの反応を入れることで強調されています。予告動画にある「車椅子になる前は誰のたすけも借りなかったのか?」的なセリフがグッとくるんですよね。

その杉野遥亮くん演じる恋の相手役もほんとに優しくて。子供たちだけでなく遥の接し方がいいんですよね。彼の口から語られますが、とある人物の関係、そして彼本人の境遇も関わっているのでしょうが相手の立場になれる。余計なことはせずに、自分にできるやり方でサポートしてくれるからカッコいいです。そこまでラブロマンス要素は多くありませんが、カヌーや車椅子を彼が調整してくれたってのがまたいいですよね。

他の登場人物で言えば、小沢さん演じるコーチ。自分から道化というかふざけっぱなしですけど、決めるところをきちっと決めてくれるし、子供たちのためにああいう場を作ってるしこの人も素晴らしいと思いました。遥と昔から知り合いだったのも大きいですが、この人が引っ張ってくれなかや自暴自棄になったままだったはず。人生の転機になってる。メイキング動画とか載ってますが、アドリブも結構入ってるようで。この人が出るだけで画面が明るくなりましたよ。

でも一番泣かせてくれるのは遥の母親。もう一人の主人公と言えるくらい、個人的にはこの人目線で見てしまいました。発端となった事故にしても「自分が迎えに行けてれば」って責め続けるし、日に日に塞ぎ込んでいく姿を見るのがどれだけ辛かったか。新しい目標を得てイキイキしてる娘を見るときの本当に嬉しそうな顔といったらもう。それだけで若干じわっと涙が(笑) 初めて他人と戦うことになる選考会で明かされる事実もめちゃくちゃ泣けます。劇中で言われてましたが、本当にすごい人。そもそもシングルマザーで彼女をあそこまで育ててくれたんですものね。

そういう人の優しさ、想いだったり、悲しいことがあってもまた立ち上がる素晴らしさで十分感動できる映画なのですが、最後の大会シーンはスポーツを扱う物だけあってかなり見応えあって。必死でトレーニングした彼女がどこまで王者に食らいついていけるのか、ハラハラしながら見れましたし、単純に映像が綺麗なんですよね。水面が映える。タイトルがなぜ「フライト」なのか。彼女が高跳びをやる理由。そして水に浮かぶカヌー。絶妙なタイトルだったと思います。遥のルーティーンのシーンも良かったです。

カヌーを題材にした映画が少ないってレビューがチラッと見えて、なるほど確かになと思わされましたが、この作品見ているとその魅力が伝わってきてほんとにやりたくなりました。多分選手として段々と速さを求める遥だけじゃなくて、楽しそうに漕いでる子供たちが出てくるからってのも大きいと思います。そりゃ落ちる危険性もあるけど、自分の手で漕いでどんどん進んでいける。めちゃくちゃ気持ちいだろうな、と。そして子供に聞かれた遥が答える「沈する(溺れる)のを恐れて全力を出せない方が悔しい」という言葉は人生にも共通するはずなので、今後大事にして行きたいと思いました。全体的に人の優しさ、そして勇気をもらえる素敵な映画でした。

WOWOWにて録画、視聴。

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水上のフライト [DVD]

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水上のフライト (徳間文庫)

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