しゃぼん玉 / のベストセラー小説を林遣都&市原悦子主演で実写化した感動ドラマ。ひったくりして人を刺して逃げてきた青年。道で倒れていた老婆を助けたことで共同生活が始まる。周りには彼女の孫だと思われ、穏やかな日々が続くかに思われたが……。

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「凍える牙」(直木賞受賞作)「水曜日の凱歌」で知られる乃南アサのベストセラーを映像化したドラマ。メガホンを取るのはドラマ「相棒」で助監督を務めてきた東伸児。市原悦子、最後の映画出演作となる。
自分が勝てそうな相手だけを選んでひったくりを繰り返していた青年、イズミはいつしか脅すためにナイフを手に反抗を及ぶようになっていたが、ついに相手を刺してしまい、逃亡。宮崎県の山奥にたどり着くも、そこで倒れている老婆を発見。悩んだ挙句彼女を助けると、周りの人たちは村を離れていた孫だと勘違い。金だけを盗んで逃げようと考えていたイズミだが、そこで生活することに。仕事も与えられ、少しずつ穏やかな日々が過ぎていくのも、自分の罪と向き合うこととなり……。
家庭環境もあり不器用に生きてきた主人公を林遣都が好演したほか、藤井美菜、相島一之、綿引勝彦ら共演。

あらすじ
親に見捨てられた果てに、通り魔となって老人や女性を襲い、強盗を重ねて逃避行中の伊豆見(林遣都)。宮崎県の山深い村に足を踏み入れた彼は、けがをしたスマ(市原悦子)を助けたのが縁で彼女の家に居候することになる。金を奪って逃げようと考えていた伊豆見だが、スマや伊豆見を彼女の孫だと思い込む村人たちと接するうちに、心の変化が生まれる。ある日、10年ぶりに村へ帰ってきた美知(藤井美菜)と出会ったのを機に自分の犯してきた罪の大きさを感じた彼は……。(シネマ・トゥデイより)


あらすじを読んだだけでもなんとなく結末が見えて、その時点で泣きそうになってしまったわけですが。結論からいうとワンワン泣いちゃったし、こういう作品こそ作られるべきだよ、ってつくづく思いました。僕の中でトップレベルに好きな映画だし、色んな人にすすめたい。原作・キャスト、演出、主題歌、どれも欠点がない。予告動画を検索したYoutubeのコメント欄にて「少年院で上映されてる」と書かれていましたが、この映画見たら素直に自分と向き合える気がします。

一瞬スマさんはマジで勘違いしてるのかな、と思ったんですが、すぐに「孫じゃないとわかった上で受け入れてる」ことがわかりますし、周りの勘違いを否定しないからその度量、人間の器みたいなものに逆に不審になっちゃうレベル。それはイズミも同じで、遅く起きてすでにできてるご飯食べてタバコ吸って風呂入って寝る、という、何の生産性もない生活してることに彼の方が居心地の悪さを覚えてるような気がします。彼自身が何か損得なしに人にしたことがないから、スマさんの行動の裏に何かあるのか、ないとしたらなぜこんなことができるんだって思ってるじゃないかなぁって。それは中盤の「この村の人はみんな親切だよな」ってセリフにもにじみ出てるし、相手の「それはあなたが周りに親切にしたからよ」って言われるの含めて、彼はやっと『居場所』を見つけたんだなぁって見終わった今思い出しても泣けます。

予告にある通り、フラフラしてきた自分自身を「シャボン玉」と自嘲するわけですが、シゲ爺にしごかれながらも山仕事をきちんとやって、祭りの準備も手伝って。ちゃんと「村の住人」としてカウントされて頼られていることがイズミにとってどれだけ救いだったか。それが生きる意味だったり、実感なんだと思います。しかも同年代の女性ともいい感じになりそうで、このまま穏やかな日々がいつまでも続くと。そう思ってた矢先の彼女の過去。

こういう題材だと「警察が追ってくる」というパターンの方が多いと思いますが、村での生活で成長してるイズミにとって「被害者の存在を思い出させる」方になってるのは余計きついものがありますよね。一方的に自分は親に愛されてないからこうなったんだ。生きるためには仕方ないんだ、って正当化して見て見ぬふりしてて。それでも思い出して苦しくなってたのに、まさか「通り魔」というのは。どうしたって重なっちゃうし、自分のしでかしたことの本当の罪の重さを実感したはず。

そこからの行動がまた泣かせて。仮にこれだけで一気に改心してあのラストに繋がってたらちょっとでき過ぎてる感があったのですが、そんなに簡単には決心できないのが人間というもの。また「逃げる」選択をしてしまう気持ちも大いにわかるからこそ、バッドエンドなのかもって思わされてほんとにハラハラします。「本物の孫が出てくる」パターンもことも身構えていたはずなんですが、この流れであのキャラ(予告に出ちゃってるので書きますが、スマの実の息子)が、しかもああいう形で絡むのはなかなか衝撃的でしたね。イズミが自分自身に対して漏らしたようにも受け取れる「死んじまえ」は深い。

市原さん演じるスマがかなり明るい人で、ケタケタ笑いながら、それでも大きな愛情を持って人に接してるのは全編通じてこれでもかってわかるんですけど、やはりこの終盤のやりとりが一番やばかった。原作がいいからここまで泣けるんですけど、改めて考えても市原さんだからこそより魅力的になった。「生きててくれ」ってセリフに、一度は無理だって冗談めかしたあとでちゃんと「待ってる」って言うシーンがね……。これ終盤の展開のネタバレ言っちゃってるようなものなんですけど、あの覚悟を決めたイズミと、それをちゃんと受け入れて優しく背中を押してやるスマさん。二人とも演技うますぎてボロボロ泣いちゃいました。向かう流れも音楽の使い方も王道だし、シゲじいの「おにぎり食っていけ」って空気読んで車でひとりにしてくれるところとかも含めて余韻を残すいい終わり方。

そう思ってたらちゃんと後日談までやってくれて、ますます良かった。特にいっさいのセリフなし、イズミの佇まいだけで表現してるのも泣けるんですよね。あの人を見つけて涙腺が決壊しつつも、最初に目指すのはあそこ。居場所は家であり、そこに灯りがついている意味。いやーいい演出。しかもまた秦基博さんの癒しボイスがかかるっていうね。なんだこの映画は。

100人見て100人泣いちゃうレベルの作品だと思うので、ぜひハンカチやティッシュを用意してご覧ください。人の優しさに触れ、頑張って生きようって思わせてくれる素敵な映画でした。

huluにて配信中。すべりこみでいい映画を見れて良かった。




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