岸辺露伴は動かない「ドリッピング画法 前編・後編」感想。露伴がハッピーエンドではない、と前置きした上で語り出した物語。彼が巻き込まれたトラブルとは。後編は5月発売のウルトラジャンプ6月号に掲載中。

先月「前編」が掲載されることをご紹介したジョジョスピンオフ最新作「岸辺露伴は動かない エピソード11 ドリッピング画法」。2ヶ月連続掲載ということで、後編が載っているウルトラジャンプ6月号も5/19より好評発売中。
迷いましたが、僕なりの感想を書いておきたいと思います。
ジョジョリオンの時と同様、本編のネタバレを含みますのでご注意ください。
当然、かもしれませんが今回後編を読んだ後にもう一度前編の頭から一気に読み返しまして、改めてこの出来事が露伴にとって深い傷になってしまったことを実感しました。
実際に彼が口火を切って村瀬美月の体験したことが描写されたはいいものの、彼女が不貞を働いたのちに謎の車に煽られてしまうということで前編が終わってしまったため、サスペンスとしての引き込まれたまま1ヶ月待つことになり、正直物足りないような気持ちになったのも事実です。誤解を恐れずにいえば、あっという間に読み終えてしまったのです。

先月の紹介でも書きましたが、何かを轢いてしまったかもしれないこと、さらには全てお見通しのような夫の電話。と、煽ってくる車自体と他の要素がどう絡んでもおかしくない状況ですし、これを露伴はどう知ったのかどう関わってくるのかということに考えを巡らせながら楽しく待ってはいたんですけどね。

そして今回の後編。煽ってくるのが悪役とは限らないってのはほんのちょっと過ぎりましたが、「別の危険を知らせてくれてただけ」っていうある意味ベタな展開、しかもそれが露伴だったとは。どうしてそこまで考えられなかったんだろう。ラッセルクロウの『アオラレ』の印象がまだ残っていたのもあってすごく視野が狭くなってましたね。悔しい。それがわかるとライトのパッシングや、消化器など「必死に車を止めようとしていた」理由がスッと腑に落ちていく。止まったら何かされるんじゃないか、って村瀬も読者も勘違いしている状態で、実はそれこそが助かる道だった。後編でのネタバラシのためにも、前編があそこで区切られてるのにも納得しました。

追ってくる車と並走して、相手の運転手(露伴)が見える瞬間。完全に「流れが変わる」気持ちよさ。さらにそこからのテンポが凄まじいんですよね。一瞬映った謎の存在によって、村瀬が……。
車を止めようとすると同時に、警察ほかにも連絡してた露伴。『あいつを止められない』

事故った車からずるっと出てくるシルエットが不気味すぎる。何か土地とか、あるいは車そのものに寄生するスタンド的な生物かと思ってたらまさかの人間だとは。話の流れからするとこの環境テロリストこそ、前編で露伴が話してた「取材」の相手だった。おそらく露伴を呼び出した上で爆破予定の火力発電所まで誘き出し、目の前でテロを起こすって計画だったんでしょうね。村瀬の車に潜むことがある意味彼女を人質にして、露伴に追わずにはいられない状況を作り出した。
読み返すと衝突事故起きて猪かなと考えている時に『下に見えるのが発電所だから』って言及してるんですね。でもここから予想するのは無理だよ。

怒らせちゃまずい人を怒らせた、とかはあるけど、今回のは完全に露伴は悪くないですよね。この言葉は好きじゃないですが、有名税。著名な漫画家だからターゲットにされた。ただそれだけ。なぜここまでの行動を取るのかの身の上話も披露されますが、彼曰く「わたしは沈んでいく船だよ」ネットとかで揶揄される【無敵の人】ってやつ。悲しい。

もう殺されるのを覚悟で、全て計画済みというのも、彼にとっての「聖戦」であるのが伺えますが、あえて警官が集まるのを待ってたようだし『追い詰められたジレンマの向こうに、不屈の魂がある』というセリフが一番はっきりと表してる。露伴も「心のカウンセリングへ行け」って言いた苦なるよ。もう思い詰めすぎておかしくなってるんだよ。

でもこのエピソードで一番印象深いのは、露伴の「なぜ僕なんだ」とか「ここではないどこか他の場所でやれ」という言葉なんですよね。テロリストも一番グッとくる、と言ってますが、故郷への思いって強いですからね。建前とか抜きにした、心の底からの叫びだからこそ響くし、人間味があって共感できる。これは露伴の魅力がさらに増しました。

そして考え過ぎかもしれませんが、あえて言わせてもらうと例えば被災地とかにも言えるんですよね。幸運にも僕は大きなものに巻き込まれたことがないのですが、「どうしてよりによってここなんだよ」って感じるだろうなって思うし、他の人が同じように辛い思いをしてほしいわけじゃないけど、「別の場所で起こっていたら」と考えてしまうことも仕方ないと思います。ここに荒木先生の震災に対する思いが出てるのかなって感じました。本家が流されてしまった、というような記事も見ましたし。だから同じように悔しくて悲しくて辛い人たちに対しての共感とか、代弁なんだろうなって。もっと広げれば戦争の舞台になる場所の一般市民だってそうですよね。人も死ぬし、故郷が破壊されていく。

もう1秒も猶予がない状態で、排気ガスを利用してテロリストを無力化する。皮肉にもガソリン車、一酸化炭素ってのいうのがね。「山の神」に言及するのもこの露伴スピンオフっぽい。
「1.2分で気絶し、死に向かっていく」という説明で、涙を浮かべるカット。読み終わってTwitterを見ていたら、「殺してしまった」という解釈を見かけました。エピソードに対しての表現とか、ここまでの表情することを考えるとその可能性もあると思います。が、個人的には気絶させただけで、一線を越えてて欲しくないなと思ってます。すぐ警官が来てるし、救助すればなんとかなるはず。うーん、厳しいか……。説得してる途中から結構涙を浮かべてるんですよね。だからどこか「そんなところまで思い詰めたテロリストに同情している」という要素もあるだろうし。
でも確実に村瀬は死んでるから、間違いなくハッピーエンドではない。

舞台は現代に戻り、おそらくこの話をそのまま漫画に落とし込んで制作してるっぽい露伴。そこに飛んでくるオレンジの飛沫。それは泉ちゃんのパスタのソース。これによって露伴は激怒しますが、実は落ち込んだ露伴を励まそうとしてたってわかるのが最後の最後で「露伴を読んでいる僕ら」に対しての救いになってる。「あの話はハッピーエンドだよね」って言い聞かせるように、バキンに話しかけています。
すぐ上で書いたことに矛盾しますが、犠牲者は出たものの、テロ自体は防ぐことができた。もちろんそれはとてもいいこと。だからどっちによりスポットを当てるかの違いなんですよ。誰だって悲しいことにばかり目を向けてたら落ち込んでしまう。無理矢理でもいいから、良い面を見るようにするべきって言われてるような気がして、悲しい話でしたけどちょっとだけ晴れ間が見えたようでした。
しかもこれこそがドリッピング画法だったという。

ここで数回触れた通り飯豊まりえさんは戦隊ヒロインで見かけて以来好きな女優さんの一人ですし、高橋一生さん実写ドラマでもかなりハマりやくですごく癒されるんですが、「明らかに出番増えてないか?」っていう喜びでね。最後のシーンとかめちゃくちゃ実写で見たくなりましたもの。暗いけど、確実に人間の心を揺さぶるし、スタンドも出てこないからエピソード自体も3夜連続の2話目とかに適してそうだし。第3弾、第4弾とかで期待しちゃいます。

物語冒頭でできたら話したくない、って露伴が言っていたように、確かに切ない物語でしたが前後編という構成を生かしたサスペンス要素、スピード感でとても面白かったし露伴の人間性が深掘りされてとてもよかったと思います。

それぞれウルトラジャンプ5月号&6月号に掲載、物理書籍に在庫がなくても電子版ならすぐに読めますのでそちらでも是非に。ジャンプの電子書籍アプリでも買えるみたいですね。

B09WMX8K6V
ウルトラジャンプ 2022年5月号

B09XF5535G
ウルトラジャンプ 2022年6月号

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック