小さい頃の事故以降、解離性同一性障害で7つの人格になりそれが曜日毎に切り替わるという症状をもつ青年。性格や趣味すら違う彼らは工夫しながら穏やかな日々を送っていたが、ある朝「火曜日」が目を覚ますと、本来なら翌週の火曜日のはずが、翌日つまり水曜日になっていた。はじめて経験する世界に戸惑いながらも満喫していくが、少しずつ異変が起きて……。
石橋菜津美、中島歩のほか、休日課長、深川麻衣、きたろう ら共演。
あらすじ
幼少期の交通事故が原因で、曜日ごとに7人の人格が入れ替わる青年は、思考や性格はバラバラだが、各曜日の名前で呼び合いながら平穏な毎日を過ごしていた。その中でも地味な火曜日(中村倫也)は、ほかの曜日から家の掃除、荷物の受け取り、通院といった面倒な用事を押し付けられていた。ある日の朝、目を覚ました火曜日が水曜日がいなくなっていることに気づく。火曜日は、見慣れないテレビ番組などに戸惑いながらも水曜日を満喫する。(シネマ・トゥデイより)
タイトルと設定だけ聞いた段階ではナオミ・ラパス主演で同じく演じ分けが話題となった『セブン・シスターズ(原題を直訳すると「月曜日に何が起こったか』を思い出しました。あちらが実際に7人いたのに対してこの作品では別人格。それでもあれと同じように全然タイプが違うようですし、もともと中村倫也さんの演じ分け・作品毎の幅の広さには驚かされてきたので堪能できるのかなーなんて楽しみにしていました。
ただ、最初に断っておくと上記あらすじの通り大部分での主人公は「火曜日」であり、矢継ぎ早に切り替わるとかそういうことはありません。予告動画で出ている通り、一応それぞれ7人が映るシーンももちろんあるんですけど、基本は真面目な性格の一人の状態、彼の目線で進んでいきます。が、後半にかけてはそのかぎりではないので、演じ分けという意味では流石のクオリティでやってくれてます。お楽しみに。
個人的に中村さんの演技の中ではちょっとおどおどしてたり落ち着いてるタイプが好きなのですごく良かった。意識して声を高めに喋ってくれてます。上野樹里さんとともにやってるセキュリティのCMとか下手すると彼だって気づいてない人もいるんじゃないか?くらい、低い声でクールな役の時のギャップすごいですよね。
そもそもの設定が奇抜で目を引くのに、そこに加えて「ある一人の人格」目線で描かれるからより奇抜な世界となっていて、『火曜日の世界しか知らない』ってこういうことなのかっていう非現実感がすごい。図書館は定休日で、テレビで紹介されるのは猫で。序盤のあたりは1日のルーティーンを見ることで、7人がどうやって一つの肉体を共有し生きてきたか。というのがわかって興奮しっぱなしだった。申し送りみたいな日記をつけてて他人との会話で失敗しないようにしてたり、苦労が垣間見える。それでも杜撰な性格の人もいるから言い忘れとかで失敗が起きちゃったり。
それが彼のすべてで、当たり前だったのに、水曜日を体験してしまった。戸惑いながらも「こうなったら火曜日にはできなかったことをしよう」って満喫しはじめるあの幸せそうな顔がとても良かったし、一番真面目で気弱な火曜日だからこそ微笑ましい映像になってたと思います。念願の図書館と、そこで出会う恋。
恋といえば足しげく通っているみたいな、元同級生も気になりましたね。話し振りからすると人格全部とやり取りしてるっぽいものの、もしかしてその中でも「火曜日」に特別なものを感じてるのでは?とか。しかし彼にとっては恋愛というよりも秘密を話せる数少ない友人という認識だろうし。火曜日と一目惚れの女性が進展すればするほど、彼女の中には自分の知らない「水曜日」がいて……という、もどかしい四角関係のようなものが浮き彫りに。
そういった「水曜日が消えたこと」での変化を追う中で、別の不安要素もどんどん出てくる。身に覚えのない日記や、めまいの頻発。経過観察で世話にになってる病院にやってきた若手の医者もなんか独特のオーラ出てて不審だし、ものすごく怖くなっていく。
多重人格を扱った作品でもよくありますが、人格が消えるということは、自分自身(この映画でいうと「火曜日」)が消えてしまう恐れもあるってことで、中盤あたりからの突然ワープしてるような感覚の描写からミステリー、サスペンスとしてかなりの見応えがあります。どうなるんだろうかって気になるし、そもそも何が起きてるのかわからない不気味さ。
その真相が分かるのと並行して事故の直接的な原因についてもわかっていくのが面白かったですね。なるほどそれがこう絡んでくるのか〜とか。事故現場の車のミラーに写った鳥の演出とか、木曜日?が書いてたイラストとか伏線は結構あった。見せ方が非常にうまい。
でもこの映画のキモはそういう部分を超えた先の、「ある人格」にとって「他の曜日」はどういう存在なのか、というのを見つめ直し、答えをきちんと出すところにあるんですよ。上で「非日常」って書いたけど、7人いるのが彼らにとっての当たり前で、普通。だからこそああいう選択をした。そこに至る途中でちょっとびっくりさせる仕掛けがあるんですけど、東野圭吾さんのとある作品のおかげで予想できてしまった。
おどろおどろしくてハラハラさせられるシーンはあるものの、最終的にはとても爽やかで主人公にとっての幸せを予感させる素敵なしめかただったので嬉しかったですし、ハッピーエンドと言えると思う。主人公「火曜日」と、さらにもう一人フューチャーされる「人格」も、どこかファイトクラブの関係性に似てて面白かった。
予告で思うほどじゃないにせよ、中村倫也さんの演じ分けも堪能できますし、登場人物が少ない割に世界観が完成されていてめちゃくちゃ引き込まれてサスペンスとしてかなりのクオリティでした。小説が原作だと思ってたんですが、出ているのは映画のノベライズなので、吉野耕平さんのオリジナル脚本。CMディレクターとか、CGクリエーターとしては君の名は。などに参加されてる方のようです。素晴らしかった、違う作品も見てみたい。
アマプラにて視聴。21年8月下旬現在、会員見放題対象です。
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