それだけが、僕の世界 / イ・ビョンホン主演。自分を捨てた母と再会し、サヴァン症候群の弟がいることがわかった40歳の元プロボクサー。家族の共同生活がはじまるが……。家族の絆を思う感動作。

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イ・ビョンホンがかつて自分を捨てた母親、そして存在さえ知らなかったサヴァン症候群の弟たちと暮らすことになって少しずつ絆ができていく様を描いたヒューマンドラマ。監督は『王の涙 イ・サンの決断』で脚本を担当したチェ・ソンヒョン。
プロボクサーとしてアジアチャンピオンまで上りつめたジョハも40歳となって限界が見えつつあったが、偶然実の母親に再会。彼女は暴力を振るう夫に耐えかね、息子を残して出ていって行ってしまったことから、ジョハは「捨てられた」と大きく深い溝があった。ただで衣食住が得られるならと、一時的に家に厄介になることにするが、そこにはサヴァン症候群を患う弟ジンテもいて……。
ジンテ役にパク・ジョンミン、母親役にユン・ヨジョンの他、ハン・ジミン(知ってるワイフ)ら共演。
あらすじ
40歳を過ぎたジョハ(イ・ビョンホン)は、アジアチャンピオンだったこともある元プロボクサーだが、今では昔の面影はなかった。ある時、彼は子供の頃家を出て行った母親と数十年ぶりに再会し、そのとき初めて自分にサヴァン症候群という病気の弟ジンテ(パク・ジョンミン)がいることを知る。(シネマ・トゥデイより)


いきなりその存在を知った兄弟がサヴァン症候群で、と言われたら誰だって名作「レインマン」を想像すると思うんですが、この映画もやはり主に患ってない方の目線で描かれています。が、母親だったり、義足のピアニストだったり、大家の娘だったり、それぞれのキャラクターの物語としてもかなり感情移入しやすくなっていて、また違った魅力がありました。ただの兄弟の絆物語ではありません。

なんと言っても母親との距離なんですよね。暴力に耐えかねて、逃げ出すように家を出ていってしまった。息子したらそんなひどい父親と二人だけ残して……っていう怒りや悲しみがあるし、それを抱えてずーっと生きてきたわけですから、いきなり大切にされても困惑しちゃう。40歳になったからとか、何年経っているからとかは関係ないんですよね。彼は知るよしもないことですが、自責の念にかられて母は自殺しようとしてる。それを止めようとしたのが縁でジョハの父親と再婚(?)したんだろうな、ということが映画見てると分かるのですが、彼女もまたずっと後悔が残っていたと思います。精神的にギリギリだったからこその行動で「何か別の解決方法はなかったんだろうか」と思う一方で、同情してしまうのも正直なところです。

基本的に「サヴァン症候群だから生き辛い」っていうシーンがほとんどないっていうのも救いの一つでもあります。ジョハ本人的には毎日好きなピアノやって、好きなピアニストの動画見て、ゲームやってっていいう楽しそうな様子が終始続きますし、さすがにいきなり共同生活はおっかなびっくりもあったでしょうけど、お兄ちゃんができた喜びも見えたりして微笑ましかったです。コンクール周りはちょっとアレですが、本人的にはあまり気にしてないですしね。

しかも大家さんの娘がまたいいキャラしてるんですよね。暴力系ヒロイン、というのは言い過ぎかもしれませんが、色々きつい言動しながらもずっと面倒見てくれてるし、お姉ちゃんみたいな感じ。ピアニストお嬢様に嫉妬するところ笑いました。そしてかなりインパクト大きかったのは、ホストクラブを経営する母親のことを「シングルマザーだからああいう風に強くならないとダメだったのよ(だから不遜な態度でも許してあげてね)」とジョハに言うところ。ここでジョハの母もまた今現在一人で障害を持った息子ジンテを育てるし、ここまで来るのも色々苦労があったんだろうな、彼女もただ楽しく暮らしてただけじゃなかったんだなって改めて思わせるきっかけになっている。その辺りも含めてちょっとずつ心境の変化が見えてくるのがうまい脚本だなぁと。

そのジョハ・ジンテの母親もまためちゃくちゃ泣かせにきてて。他の作品でも何度も見たことがあるユン・ヨジョンと言うおばあさん女優が演じてるんですが、息子二人に対する想いがこっちまで伝わるんですよね。年齢のこともあるし、「ああこれは病気になっちゃうとかのパターンかな」って予測しながら見たのですが、長男に対しては捨ててしまった後悔だったり、詫びる気持ち、今からでもいい思い出を作りたい、そして弟のことを任せたいってのが大きいでしょうし、次男ジンテは自分がいなくなっても無事に生きていけるだろうか、才能を活かして活躍の場を与えられないだろうかっていう不安。親として、何をしてきてしてこれなかったか、そして何ができるだろうかっていう部分で彼女にめちゃくちゃ感情移入しちゃいましたよ。入院する前の日にワイン出してきて「踊ろう」っていうシーンも泣けます。まあ一番泣けるのははピアノコンサートの時なんですけどね。

この映画にとってピアノも重要なアイテムで、あらすじや予告動画は出ていない義足のお嬢様ピアニストの物語も大きな意味があった。意外な形でジンテ憧れの人との接点ができるも、彼女もまた過去に囚われた人間の一人。それがジョハやジンテの存在で解放されるところが泣けるし、変にラブロマンス要素にしなかったのも好印象。日本人だとボクサーとお嬢様っていうと「あしたのために」ってよぎっちゃうんですけどね(笑) お嬢様の母親の立場になっても見ちゃってて、そこもまたジーンときちゃう。

全体的に割と王道な方向へ進んでいくんですが、それぞれの演技力が高いのでものすごく入り込めちゃうし、繰り返しになりますが色ん人に共感して、印象的だったり感動するシーンが多々ありました。一番最初の頃の韓流ブームでヨン様とともに四天王と呼ばれてたり、ハリウッドでも活躍してるイ・ビョンホンが中年の元ボクサー(殴られて失神するシーンまであります)やるんだからなぁ〜。ちなみに母親演じたユン・ヨジュンさん、2021年のアカデミー賞にて助演女優賞でノミネートされたそうです(21年3月15日現在)その出演作「ミナリ」すごく評価されてるらしいのでそちらも楽しみです。

静かに泣かせてくれる傑作映画。
WOWOWにて字幕版を録画、ののち、最近huluにて吹き替え版を視聴。







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