ジョーカー / ホアキン・フェニックスがDCコミックのヴィランを演じた問題作。孤独だが心優しいコメディアン志望の男はいかにして狂気のピエロへと変貌したか。

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バットマンの宿敵ジョーカーを主人公に、名優ホアキン・フェニックス主演で描いたサスペンスドラマ。大道芸人として働き、家では年老いた母の世話をする心優しき男アーサー。コメディアン志望で人を笑わせたいと思っていた彼に不幸が連続で起き、だんだんとその心は闇に染まっていくが……。
ロバート・デニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイら共演。

あらすじ
孤独で心の優しいアーサー(ホアキン・フェニックス)は、母の「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」という言葉を心に刻みコメディアンを目指す。ピエロのメイクをして大道芸を披露しながら母を助ける彼は、同じアパートの住人ソフィーにひそかに思いを寄せていた。そして、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、底辺からの脱出を試みる。(シネマ・トゥデイ)


いやー、すごい映画でした。アカデミー賞でも主演男優賞、作曲賞を受賞してますし、公開当時ものすごい話題だったので見るのが楽しみだったんですが、ここまでのパワーをもった作品だったとは。ものすごい影響受けそうだし、明らかに一線を超えたキャラクターなのに、同時に一人の人間としての苦悩、悲しみを持っているせいでかなり共感してしまうんですよね。

そもそも昨今映画化されているDCコミックの実写シリーズとは独立してますし、先日ここで紹介したハーレイクインの映画、あるいはジャスティスリーグとかも直接的な繋がりはないんですけど、過去の映画作品にも多数登場し「バットマンのジョーカー」といえば知名度的にはかなりのもの。でも今回のジョーカーはそのどれにも近くて、でもどれとも違うという絶妙なバランス。正直この映画を「アメコミ作品」と表現するのも違うんじゃないかってくらい独特の魅力があります。

序盤あたりの本人は一生懸命にやってるのに悪いことばかり起きるのは本当心が抉られそうで、見てて辛かった。予告動画にあるバスの中で子供を笑わせようとしたのに、とか、看板持ちの仕事を妨害されるとか。で、トドメの電車内のシーン。あれ一切アーサーは悪くないのに、集団でやられてしまうこと自体も嫌だったし、絶対に銃で悲劇が起きるって予想できちゃうからその事が怖かった。作品として進まないけど、あれがなければアーサーはアーサーのままだったんじゃないかって。
他にもコメディアン志望なのに笑いのセンスはあまりなくて(人の漫談聞いてても一人だけ違うタイミングで笑ってる)、かつての雇い主が助けてくれる幻想ばかりに取り憑かれてる母親の世話に追われて、仕事もあれで、っていう「救いがない」っていう状況が彼に共感すればするほど切なくなるし、こっちまで爆発しそうになってく。

ただアーサーの場合はこれがよくある「環境のせいで悪役になってしまった」という王道の一つで終わってないところがすごくて、まず条件として悪じゃないんですよね。彼の押さえ込んでいた物を解き放った。「ダークナイト」でも善悪は表裏一体という主張が出てましたけど、ジョーカーは悪人と言うよりは狂人。いや、狂ってるのは彼じゃなくて世界の方なのか。映画全体を通して明確に一線を超えるのは終盤の衝撃的なシーンのみで、あとは自衛なんですよね。ただ彼のとった行動が引き金になって、ミームというか、人々の抑圧された物、苦悩や鬱憤に火をつけてしまった。この映画を見た僕らも「アーサーの気持ちがわかる」「ジョーカーになりえる」って感じてしまってることこそが、劇中での市民と同じで、そこもこの作品の凄いところだなぁって。

でも一番度肝を抜かれるのはラストシーンで、「そういうことなのか?」と。まんまとやられてしまいました。解釈が不安なのでいくつか感想を見ちゃいましたが、公式には発表されてないものの、僕と同じ認識をしてる人が多数でした。劇中でもよく憧れのコメディアンのテレビを見ながらああいうことをやってたり、さらには同じアパートの女性など、伏線的にやってるんで、あれもつまり……?と考えるのが自然なような気がします。

その憧れのトークショー一連のエピソードもけっこう辛くて、完全に笑い者にしてるのがキツかった。でもそこで語ったジョーカーの言葉が本当カッコ良くて。チャップリンの名言に「人生は近くから見ると悲劇だが、遠くから見ると喜劇」ってのがあって昔から好きなんですが、主観、という概念で彼が話した内容とどうか通づるものがあって、この辺は彼が覚醒した感、さすが悪のカリスマだなぁって感じがしましたね。劇中でもチャップリン見るシーン出てきますし。

これらの印象的で魅力的な要素も全てホアキンフェニックスの演技の賜物で、笑い方一つとっても本当夢に出そうなくらいですし、物悲しそうだったりグッと堪えてるところ、それとは対照的に吹っ切れてだんだんといい顔になっていく姿(痩せてた体型がだんだん回復してくのも含め) アーサーという人間像を見事に作り上げてて、素晴らしかった。冒頭で触れたようにオスカー獲得も納得です。個人的には心配してきてくれたかつての同僚のシーンは狂い始めてる彼の本領発揮でめちゃくちゃ怖かったです。髪を緑に染め、ピエロのメイクをするってところからさらに雰囲気が変わるんですよね。アーサーからジョーカーへ。

話題作ってことで期待値も高かったのですが、なるほどこういう映画だったのかってただただ圧巻。咀嚼するのに体力がいるタイプの作品。今の世の中への風刺だったり、自身の他人へ対する接し方などを自戒したり、あるいは自分に重ねて共感など見るひとにとって色んな影響を与えるパワーある映画だと思いますので、R指定なのでショッキングシーンあるのだけご注意ですが、とてもお勧めする1本。

Netflixにて吹き替え版を視聴。ジョニーデップなどの平田広明さんが声を当ててました。
7/8本日より配信開始です。




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