クヒオ大佐 / 堺雅人主演。1990年代、アメリカ軍のパイロットになりすまして女性たちから金を巻き上げていた結婚詐欺師の物語をコミカルに描いた人間ドラマ。弁当屋、銀座のホステス、博物館スタッフとターゲットを増やすが……。

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吉田和正による「結婚詐欺師 クヒオ大佐」を堺雅人主演で実写化したコメディドラマ。結婚詐欺師として女性たちから1億をも騙し取った男の物語を描く。それぞれのタイプの違うターゲットの女性たちを松雪泰子、満島ひかり、中村優子が演じ、同時進行で関係性が変化していく。
90年台初頭、パイロットの制服で出歩き、アメリカ軍のクヒオ大佐という架空のキャラクターを作り上げて有る事無い事でまかせを言うことで女性たちと交際し、お金を得ていた男がいた。現在の本命となる弁当屋の女主人に加え、銀座のホステス、さらには博物館の職員などに目をつけ更なる稼ぎをもくろむが……。
新井浩史、アンジャッシュ児島、内野聖陽、安藤サクラら共演。
あらすじ
1990年代初頭、クヒオ(堺雅人)は、自分はアメリカ軍特殊部隊のパイロットで、エリザベス女王とも血縁関係にあたるなどと吹聴し、次々と女性たちをだましていた。だが、実際彼は純粋な日本人で、華麗な経歴もすべて自ら作り出したものだった。弁当店を営むしのぶ(松雪泰子)も彼の立派な軍服姿にころりとだまされ、懸命にクヒオに尽くすが……。(シネマ・トゥデイより)


映画に対する5ちゃんねるのまとめの影響で、演技に定評ある堺雅人主演作品の中でもそこまで評価が高くない、というイメージが勝手についてしまっていた作品なのですが(すみません)、いざ実際に見てみると賛否があるのもたしかに頷ける内容。基本的に主演はカタコトで喋ってるので「ものすごくコント」っぽさが滲み出てしまい、だからといってコメディ全振りなわけでもないのでちょっと中途半端な感じも否めません。
ただ見ていくと「マヌケっぽい主人公」のアホっぷりを愛でる、さらに嘘だとわかってもあえて気づかないふりをしたかった女性の気持ちにジーンとくる不器用な人間のドラマなんだなって思えてきて、個人的には楽しめました。

そう、モテ男がスマートに騙して次々と女性たちを不幸にするっていうタイプの詐欺師じゃなくて、明らかにアラがあるのに本人は真面目にクヒオ大佐を演じてるところがシュールで面白いのです。任務の合間だからってずっと制服でいるのかとか、ツッコミどころが満載。そうやって笑って見ていると中盤あたりで弁当屋しのぶの弟にバレていかにずさんなのか指摘されるところは代弁してくれてるみたいでめちゃくちゃ気持ちいです。「お前もしかしてわざとやってるのか?」って最高。だから「稀代の詐欺師はいかにして女性たちを騙してきたのか!」ってイメージで見る映画ではないだって改めて実感します。


一応本気で騙されてしまったのは満島ひかりさん演じる博物館職員くらいで、この人だけは嘘だって確信した段階でもう感情が180度変わります。最初から怪しんでいたんですが、クヒオが彼女の優しさに引っかかるようなエピソードを話したせいで奇跡的に(笑)信じてみようって思われちゃったんですよね。これがまあ一番自然な反応というか、当たり前の結果だと思います。銀座の人ははじめからギャグとして設定されてて、騙してるつもりが逆に色々クヒオ大佐に金を無心するという。「名刺のスペルが3個も間違ってる」って、出会った段階でずっと彼女の手のひらで遊ばれてた「大人の余裕」が感じられて凄かったですし、太客のエピソードなんかも見るに正統派「異性をたらし込んで金を得る」タイプ、クヒオのお手本のような存在に感じました。

本命、いやメインヒロインの松雪さんは少し陰のある役柄がとても似合っていて、弟の登場抜きしても「もしかして」と感づいてるシーンが多々あるのが本当切なかった。すでに触れた通り「嘘だって気がつかせないで欲しい」とでも言えばいいのか、こういう状況でもいいから、彼の気持ちだけは本当で欲しい、全部が嘘じゃないと信じたい、感覚が伝わってきます。特にクヒオから『キミの隣で見る海がとても好きデス』って言われて喜んだのに、次に海辺を通っても「だから何?」って反応だった時のあの表情……。うまいよなぁ。それでも貢いでしまう。理性で説明がつかないことってあるよね、って思わされる。

ユーモラスに描いていても、ちょいちょいシリアス場面もあって、ファミレスで子供が怒られてた時のクヒオの反応とか(弟引いてた)、あるいはラスト少し前のお弁当食べるところでの幼少時代の思い出とか(食事中ちょいちょいカタコト忘れてるの笑いました) 彼がなぜこういう犯罪に手を染めてるのか、過去に何があったのかって少し垣間見えるところは、やはり堺雅人だなという演技で良かったです。まあ辛いことは悪者になったことの言い訳にはなりませんけどね。ただあそこでああいうエピソードをヒロインに語る意味。最後まで「クヒオ大佐」でいたかったんだなって。

オチ自体はちょっと独特の演出で、序盤に出てきた内野聖陽さんが再登場。舞台となる時代の説明のためなのか、個人的にはちょっと唐突な存在に思えましたが、ああいう結末なのはまあ当然かな、と納得。仮になんやかんやいい話風に終わらられても、「本編では描かれていない被害者」のこと考えて後味良くないですからね。女性たちが幸せになってくれることを願うばかりです。

インパクトある最近の主役を意識すると若干堺雅人の無駄遣い(コントっぽいから)とも感じてしまいますが、ダメ人間(人を騙すクズじゃなくて、マヌケ)の哀愁、ほほえみの中にどこか自嘲が混じったような役柄で最終的にぴったりな役柄だったなと思います。ゆるーいコメディドラマなんで、気軽に見れますし。

U-NEXTにて視聴。



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