ドラッグ依存症になり施設で治療中のはずのベンが、クリスマスイブに姿を現す。突然のことに驚く家族たちだったが、すぐに薬物検査し、さらに厳しい監視のもと1日だけという条件で共に過ごすことを許す。久しぶりの家族の日々を満喫していたが、出かけた彼らが帰宅すると何者かが家に押し入り、さらには犬がいなくなっていた。どうやらベンには心当たりがあるようなのだが……。
ベンをルーカス・ヘッジズが演じたほか、キャスリン・ニュートン、コートニー・B・ヴァンスら共演。
あらすじ
クリスマスイブの朝。19歳のベン(ルーカス・ヘッジズ)が薬物依存症の治療施設から勝手に実家に戻ってきて、母のホリー(ジュリア・ロバーツ)ら家族は驚く。継父のニール(コートニー・B・ヴァンス)と兄を案じながらも戸惑う妹のアイヴィー(キャスリン・ニュートン)は、彼がトラブルを起こすのではないかと警戒するが、ホリーが監視することで滞在を1日だけ許す。だが家族が留守にしている間に家の中が荒らされ、飼っていた犬が連れ去られてしまう。(シネマ・トゥデイより)
薬物依存症をテーマにした作品なのでその時点でシリアスで重い作品なのはなんとなく分かっていましたが、後半にかけて想像以上の緊迫感で進んでいくので正直見るのに体力がいる映画でした。日本はまだそこまで蔓延していないので救いがある反面想像しにくい部分もあるのですが、やっぱり身近にこういった誘惑があるとめちゃくちゃ大変だし、本人だけでなくその家族の奮闘は辛いんだって改めて感じさせます。
劇中で明らかになりますがベンの場合は鎮痛剤がちょっと強いもので、そこから依存していったようなので「軽い気持ちでドラッグを使った」というのとはまた少し違いますけどね。
そもそもタイトルにこそベンがついてますし、作品の中でも長い時間出ていますけど個人的にはこれ主役は母親ホリーさんだと思うんですよね。「依存症の息子を持った母親」の物語。この人の息子への愛情がめちゃくちゃ伝わってきて、見ているだけでどんどん彼女目線で見てしまう。序盤から一貫して「信じたい」けど「誘惑に負けるかも知れない」の入り混じった感覚があって、切ないんですよね。帰ってきてくれたことを手放しで喜びたいんだけど、一方で彼にバレないように薬の類を隠すとか。トイレにまで入っていく警戒の強さ。
映画の演出もかなり凝ってて、予告の「10分に一度」的な表現も嘘じゃなくて「何かしでかすんじゃないか」「暴れたりしないか」っていう緊迫なムードがだんだんと漂っていく。アルコール依存症とかだとイメージしやすいのですが、人とかものに当たるのって他の作品でもよく見るんでね、我慢できなくなってベンが暴走しないかなってヒヤヒヤします。
ミーティングに参加するくだりでもみんなが我慢してる立場だから「あなたと一緒ならドラッグやりたい」とかかなりやばい誘惑がくるし、試着室のシーンで冗談ぽく見せたかと思ったら、実際かなり危なかったりとか一応「よく耐えて偉いぞ」って部分もあるんだけど、「おいおい信じていいんだよね??」って不安が大きくなっていく。
一応彼の苦しみという面も理解できて、簡単には抜け出せないドラッグの恐怖や、後半ガッツリ関わってくる「彼が与えてしまった影響」のことなど後悔しても仕切れない、もう取り戻せないものの大きさをこっちまで痛感させられます。特にショッピングモールでホリーが医師に『あなたの鎮痛剤のせいで』ってくってかかるシーンがあるのですが、ベンは本人が依存症だけでなく売人でもあったため、同じように依存症患者をうみ、その家族共々苦しめてしまったという逆の立場にもなっているところが痛々しかったです。「私あなたから薬を買ったのよ」って。
逆ギレかよっていう「だから僕を信用しないで、って言ったよね」的な叫びも怒りやがっかりするのとともに可哀想だなっていう気持ちも浮かんだりして、ここまで描くからこそこの映画自体がドラッグの抑止力になるだろうなって思わされます。クリスマスだから家族仲良くハッピーエンド、っていう最初の印象とは全然違う話だった。
予告動画でもちょこっと見えちゃってますが、終盤に向かうにつれてベンが別行動を取るようになって、ますますホリーは追い詰められていきます。「犬なんかどうだっていい」っていうセリフは驚きますが、そのくらいベンの方が大事だし、無事にこの一時帰宅を乗り越えて、今後退院するという希望を持ちたいと思ってたからこそ次から次にトラブルが起こって参ってるのがよくわかるシーンだったなぁと。一人にしたらまたドラッグやっちゃうかも。しかも絶望したらその気を紛らわすためにとか、かつての仲間にあってとか、数え切れないくらい可能性はあるわけですからね。もう一緒になってハラハラしちゃうし、ホリーのためにも何事もなく犬と一緒に帰ってきてくれよーってただただ祈るばかり。
旦那さんが再婚というのも絶妙な設定で、だからこそ彼以外の家族を優先するし、なんなら通報して強制入院してやる的な立場なのが余計にホリーの孤独というのか「私がなんとかしなけば」っていう度を超えたものを生み出していましたし、またジュリアロバーツがさすがの演技力でやってるので鬼気迫るものがありました。もう頭の中ぐっちゃぐちゃになってるのがよくわかる。
結論から言うと一応最悪の事態は免れます。それが救いですが、ほんと緊張感ありすぎて最初に書いた通りめっちゃ疲れました。「ベンイズバック」ってタイトル、そういう意味もこめてるのね、という驚きもありますし、ドラッグというのはここまでのものなんだって、心に深く刻まれました。本人じゃなくて依存症の家族の奮闘にスポットを当てた作品なので、そういう意味でも多くの人に見てほしいと思う。これだけ苦しめるんだって。
20年3月にWOWOWで字幕版録画、Netflixで吹き替え版を視聴。21年9月現在アマプラでも会員見放題対象になりました。
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