AWAKE / 2015年に実際に行われた、プロ棋士とAIによる将棋勝負に着想を得たドラマ。棋士の夢を諦めた青年が将棋ソフトに出会い、自ら強いプログラムを作ろうとのめり込む。やがてかつての戦友と対決することになり……。吉沢亮主演。

2015年4月、将棋電王戦という舞台で戦った将棋AIソフト「ポナンザ」とプロ棋士との対局にインスパイアされた、人間ドラマ。主演は吉沢亮。一度は夢破れた彼が出会った新しい道。それは誰よりも強い将棋ソフトを作ることだった。その頭脳と熱意でどんどん吸収した彼が覚醒してく様を描く。
奨励会に通い、プロ棋士を目指してる少年英一。しかしどんなに強くても日本各地から彼と同レベルの者たちが集まっているためなかなか苦戦を強いられ、中でも陸は抜きん出ていた。狭すぎる門なため、その後もプロになれないままだった英一はついに諦め将棋自体からキッパリと距離を置くのだが、父親がやってた将棋ソフトの独特な差し手に興味を持った彼は大学で「ソフト作る」ことに熱中していく。やがて彼の作ったソフト「AWAKE」は優勝、プロとなった陸と対局することになるのだが……。
静かだけど、熱い戦いはスポ根のような面白さ。若葉竜也、落合モトキ、寛一郎、馬場ふみか共演。


あらすじ
棋士養成機関である奨励会で棋士を目指していたものの、人並み外れた強さを誇る陸(若葉竜也)に敗れて奨励会から去った英一(吉沢亮)。大学に入学し、コンピュータ将棋と出合い、そのプログラミングに興味を抱く。AI研究会に入った彼は、幼いころから将棋一筋だったために周囲との接し方が分からず戸惑いつつも、先輩・磯野(落合モトキ)の指導を受けながらプログラム開発にのめり込んでいく。数年後、棋士とコンピュータが対局する電王戦への出場を依頼された英一は、相手が陸であることを知る。(シネマ・トゥデイより)


Netflixのラインナップで目にするまでこの作品があったこと知らなかったのですが、あらすじを読んでものすごく惹かれてすぐに視聴。実際めちゃくちゃ面白かったです。先に断っておくと、現実にあったことを元に着想を得ている、ということで100%実話ということでもないですが(特に最終盤の展開は、フィクションだからこその良さがある) ロマンがありますよね。あの大勝負の裏側にはこんなエピソードがあったのかもって思えるだけで。

僕自身も、当時の人間とAIの勝負はかなり盛り上がったのをうっすら覚えてて。劇中でも中継画面に実況の文字が流れてて「ニコニコ動画」ってのが一目でわかるようになってました。将棋自体も父親や友達と遊んだり、ネット対戦をちょっとやったこともあるのでそもそも気になってました。ただ、僕はかなり弱い方なのでプロとかまでいくとあまりにも縁がない世界になってしまい、現状の対戦を食い入るように見るとかのレベルではないんです。それでもこの作品はめちゃくちゃ引き込まれた。この映画を見る人も、下手すると将棋のルールさえ知らない方も少なくないと思うのですが、一応問題はないと思うので安心してください。

まず上手いのが少年時代から描くことで主人公英一に対してすごく感情移入しやすいってことなんですよね。言い方は悪いけど、将棋しか頭にない子供。地元じゃ負け知らずだったのに、奨励会でプロを目指しはじめたら周りも似たような実力で思うように勝てない。いきなりプライドがおられる感じ。中学→高校とか、高校→大学とかで環境が変わって「あっ俺天才じゃないんだ」って現実に直面するような感覚。それでもかなり英一は頑張って学び続けた。元々そういう性格だったのかもしれないけど、努力し続けられるのは凄いよ。ちょっとコミュニケーションに難があるタイプっていうのも個人的には共感しやすいポイント。ほんと将棋バカ。

もう一人の主人公である陸も同時に描写していていて、抜きん出ているのに英一には負けるってのが良かった。二人とも友達として仲良くするってことではなく、同じ高みを目指して日々研鑽を積んでる同士、戦友という関係性。廊下に貼られれる対局結果チェックしてるのとかほんとこう「ライバル」として認めてる感があってグッとくるんですよ。できるならプロの世界でも共に戦えたら良かったけど、英一は自分の限界を認めて去ってしまう。陸も寂しかったと邪推してしまう。

英一の転機となるのは大学入学。飲み会で近くにいた将棋サークルに対しての反応とかで「完全には情熱を失っていない」ってわかるのも良かった。この面々とはアウェイクの強さを試すためにちょいちょい再登場してくる。この人らも自分の趣味を全力でやっててこれはこれですごく充実してそうんなだよな。そこに加えて、父親のやってたソフト。それで面白い手を指したのを聞いて、プログラムに興味が出る。そこでAIサークルへ。

そこからの展開は少年漫画の「修行パート」的な面白さがあって、師匠的な存在の先輩からどんどん課題を出されて、それを物凄いスピードで吸収していく。全くの初心者から、いずれプロ棋士と戦うレベルの将棋ソフトを作る訳だから当然なのかもしれないけど「伸び代」がありすぎ。そしてやっぱり人生は目標があったほうが輝き出しますよね。小さい頃やってた「歩きながら黙々と本を読む」をまたやってるのはニヤニヤします。父親目線としてもこの変化は嬉しかったと思う。

父親というと、奨励会で指導してくれてる棋士の人も良かったな。英一や陸をずっと見守ってたからこそ、電王戦で二人が戦うのは誰よりも思うところがあったし、勝負がついた後のコメントもジーンときちゃった。先生としたら全員が夢を叶えてほしいだろうし、でも同時に無理なことも知ってるし。同期の3人目、新聞社に勤めてる彼(寛一郎)という「違う道に進んだ」存在もいることで英一たちの凄さも強調されます。子供の頃の夢をそのまま叶えられる人って限られてますよね。もちろん運とか周りのサポートも関わってくるけど、それ以上に諦めずに挑み続ける強さが必要。勝負事は他人との実力差が出てきちゃうからまた話が違うけど。

勝負を前にした、AIだからこそ、プログラムだからこその穴を出すことでとたんに緊迫感が出てきたし、本番自体も賛否両論あれどショーとしてかが得たらあれが最良の落とし所だったのかな、と納得できました。これが英一しか描写されずに見てきたならば腹立ったかもしれないけど、研究として渡されたソフトをやってる陸の姿を見たら(多分負け続けてる)、彼もきっと苦しんでたと思うし、あれはあれで全力で相手した結果だと思う。だって逆を返せばああしないとダメだった、ってことになるし。

それでも当人としたらモヤモヤは残ったわけで、でもそれを消してくれるのが最後のシーン。最初にも触れましたがフィクションだからこそできる演出ですごく良かった。あの「将棋って楽しいね」っていう純粋な気持ちだけを思い出させてくれるラストはほんと素晴らしかったと思う。現実世界ではもうAIとの戦いは行われてないですし、「コンピュータは人間を超えるか」という側面でも注目されてしまったけれど。この映画ではソフトとの戦いとよりもその後ろにいる開発者にスポット当ててて人間VS人間のドラマにきちんとやってくれててすごく面白かったです。


Netflixにて視聴。

B08W5KJ77C
AWAKE [Blu-ray]


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