幸せなひとりぼっち / 細いルールに人一倍厳しい頑固者のおじいさん。妻を失い、自分を後を追おうとするも隣に越してきた家族によってことごとく失敗。強引さに負けてご近所付き合いを始めるうち、少しずつ変化が。

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頑固者の老人が近所の人間との交流を通して少しずつ変わっていく様を、彼の半生の回想シーンを織り交ぜながら描く、ユーモラスな傑作ヒューマンドラマ。一見すると近寄り難い偏屈おじいさんの、これまでの人生。そして妻との思い出。第89回アカデミー賞外国映画賞ノミネートのスウェーデン映画。
半年前に妻に先立たれ、さらには長年勤めた職場を解雇となって傷心のオーヴェ。彼はゴミの分別や地域のルールなどの細かい点に以上にうるさく、他人の飼い犬や野良猫にさえ食ってかかるほどで、かつては親しかった友人とも疎遠になりかけていた。妻の元へ行こうといざ首吊りをしようとしたところ、隣に4人家族が引っ越してくる。強引な彼女たちとご近所付き合いが始まる中、何度も自殺は失敗。しかし交流を深めるうち、彼も段々と変化して……。
ロルフ・ラッスゴード主演、バハール・パルス、イーダ・エングヴォルら共演。
あらすじ
愛妻に先立たれ失意のどん底にあったオーヴェ(ロルフ・ラッスゴード)の日常は、パルヴァネ一家が隣に引っ越してきたことで一変する。車のバック駐車や病院への送迎、娘たちの子守など、迷惑な彼らをののしるオーヴェだったが、パルヴァネは動じない。その存在は、いつしか頑なな彼の心を解かしていき……。(シネマトゥデイより)


冒頭で触れた通りアカデミー賞の外国映画賞、そしてメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされたほか、本国スウェーデンではスターウォーズ/フォースの覚醒を抑えて1位、歴代3位に入る1600万人動員とめちゃくちゃヒットした作品です。これらの情報は全て視聴したあとに知ったことなのですが、それも当然だよなと思えるほどのクオリティ。かなり泣けましたし、面白かったです。

まず序盤の「こういう偏屈じいさんっているよなー」っていう描写から面白い。ゴミの分別や、ちゃんと鍵がかかってるかチェック。侵入不可の場所に車が来たら相手が誰だろうがキレるし、いぬや野良猫やにまで「シャー」って脅かす始末。周りの人たちから明らかに疎まれてるのがわかる。それでも本人は「朝のパトロール」をやめないし、逆に燃えてるんだよね。正直自分の近所にいたらきついな、って(笑)

でもそのオーヴェに負けてないのがパルヴァネ。初対面の時から彼の自殺を阻止する(こう書くとすごいけど、基本的に全てギャグとして扱われています)し、あれ貸してくれーとかこれ食べてくれーってグイグイくる。これもまた「距離感なくて」厳しいところがあるんだけど、この強引さがあったからこそ頑固じいさんの心がとけていったのだと思う。そもそも彼は意地悪なわけではないから、困っていたら助けるし、ぶつくさ言いながらも子供の世話もきちんとこなす。だからこそ姉妹は本当の祖父のように懐いていくし、文字通りの家族みたいな付き合いになっていくのがほんと微笑ましかったです。特に絵本を読むくだりで「くまさんっぽく話して」という無茶振りにちゃんと応えるところ笑いました。

主に自殺が失敗する(笑)たびに、オーヴェの回想シーンが展開。彼と父との関係や、特に目の敵にする「白シャツ」の連中(ホワイトカラーを意訳した?)とのバトル。近所の友人ルネ。そして、彼にとって何よりも大切な、妻との思い出。なくなっている事だけは分かるものの、なかなか自分で語りたがらないし他の人間が言及しようとするとキレるのでかなり後にならないと詳細は見えてきませんが、何か行政とその責任について争ったことがあるとか、異様に低いキッチンとか伏線は結構ありましたね。若い時の写真ばかり飾られてるから「最近亡くなった」んでいいんだよな、勘違いしてないよなって若干不安になりました。
そういう大事ゆえに触れられたくなかったことまでパルヴァネに打ち明けるようになるのが、彼の変化を何よりも表しててグッとくるんですよね。予告でも使われている「そっち(天国)へいくのがまだ先になる」みたいなセリフが沁みる……。

他人との関わり方を改めたことで、溝ができていたルネとの関係もああいう形で一致団結するし、パルヴァネの出産に関してはああいう形で「目を背けてきたもの」を乗り越えることができた。いろんな要素が一気にたたまれていって、お話自体がシンプルに感動できるのに余計に泣ける。ほんとあのコミュニティっていいなぁって思う。ニートっぽいおデブくんとか、全編通じていい味出してる。もしかして彼もまた生徒だったのでしょうか。妻ソーニャもものすごいいい人で魅力的で、彼女の人生だけでも結構ジーンとくるんだよなぁ……。

ネタバレになってしまいますが、映画はオーヴェのお別れまで描いています。僕個人的には幸せに暮らしましたとさ、終わり、でも良かったかなと思ってたんですが、葬儀のシーン(参列者)、そして旅立ったあと彼が目にした光景と、感動ポイントが押し寄せてきてワンワン泣いてしまいました。大好きな映画「今夜ロマンス劇場で」のラストを彷彿とさせる、最高の終わり方でした。ぜひ見てほしい。

頑固じいさんが人との繋がりによって変わっていく。人間は誰かとともに生きてくんだなぁって感じさせて、優しい気持ちになる映画でした。言葉遣いとか、車の座席の新聞紙とか、細かい部分で変化が感じられてものすごいリアリティがありましたし、主人公をはじめ出てくる人がみんな魅力的でした。どんな人にもおすすめしたい1本。

U-NEXTにて吹き替え版で視聴。
アマゾンプライムビデオでも、2021年9月現在会員見放題対象です。

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動画はこちら

幸せなひとりぼっち(吹替版)

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